電験における,電卓操作にまつわる誤解

電験における電卓操作について,様々なところで解説を目にします。
それらの解説の多くは正しいのですが,ごくまれに誤解を元にした記述や,単純な誤りを見かけることがあります。

今回は,少々気になった説明のいくつかを検証していきたいと思います。

※この記事はあくまでも,電験に挑戦している方々が誤解してしまうことを防ぐのが目的です。他意はありません。

なおこの記事では,特に断らない限り(カシオタイプではなく)シャープタイプを想定して話を進めます。

検証1:逆数は [÷] [=] [=] で計算できる【誤り】

逆数は [÷] [=] で計算できます。

[÷] [=] [=] と押した場合は,逆数は計算されません。
シャープタイプであれば,逆数(-1乗)ではなくて,-2乗が計算されます。

  • 5 [÷] [=] ⇒ 0.2(5の逆数,5の-1乗)が計算される
  • 5 [÷] [=] [=] ⇒ 0.04(5の-2乗)が計算される

カシオタイプであっても,[÷] [=] [=]では逆数は計算されません,

これは「誤解」というよりも単純な「誤り」でしょう。

検証2:2乗は [×] [×] で計算できる【誤り/不適切】

上記の主張には2つの誤解が混入しているので,検証に手間がかかります。
(1個目の [×] は不要ですし,原則的には [×] の後に [=] が必要です。)

誤解を解く前に,まずは正しい理解をおさらいします。

2乗は [×] [=] で計算できます。

たとえば「5の2乗」を計算したければ,

  • 5 [×] [=]

と押します(「25」が得られます)。

「5の2乗」に「3」を足したければ,

  • 5 [×] [=] [+] 3 [=]

と押します(「28」が得られます)。

「5の2乗」をメモリに足し込みたければ,以下のように押してもよいですし,

  • 5 [×] [=] [M+]

以下のように,[M+] の前の [=] を省略してもかまいません。

  • 5 [×] [M+]

最後の操作例をもってして『2乗は [×] で計算できる』と主張するのは明らかに不適切です。
[M+] を押す際には,それまでの計算が確定される,すなわち [=] を押したのと同じ処理がなされると考えるのが素直でしょうから。


では,誤解を検証していきます。

2乗は [×] [×] で計算できるというのであれば,以下のように押せば「5の2乗」が算出されるはずですが,

  • 5 [×] [×]

いくら待っても「25」とは表示されません。

「5の2乗」に「3」を足したいと思って以下のように押しても,

  • 5 [×] [×] [+] 3 [=]

単に「5+3」の結果である「8」が表示されるだけです。

2乗した結果をすぐにメモリに足し込む場合,たとえば

  • 5 [×] [×] [M+]

と押せば,「5の2乗」である「25」が表示されて,「25」がメモリに足し込まれますが,これをもってして『2乗は [×] [×] で計算できる』と主張するのは不適切です。
[M+] を押す際には,それまでの計算が確定される,すなわち [=] を押したのと同じ処理がなされると考えるのが素直でしょうから。


では,

  • 2乗は [×] [×] [=] で計算できる

という主張はどうでしょうか。

たしかに,

  • 5 [×] [×] [=]

と押せば「25」が得られますが,実はこのとき,1個目の [×] は(大げさに言えば)「打ち間違い」として扱われているのです。

少なくともシャープタイプの電卓では,四則演算キーを連続で押したとき,「最後に押された四則演算キー」が採用されて「それ以前に押された四則演算キー」は「打ち間違い」として扱われます。

なので,以下のように打ち込んだとしても,いずれも「5の2乗」が計算されます。
※四則演算キー連打における最後の [×] のみが有効となり,それ以前の四則演算キーは「押し間違い」として扱われるからです。

  • 5 [+] [×] [=]
  • 5 [-] [×] [=]
  • 5 [÷] [×] [=]
  • 5 [×] [×] [×] [=]
  • 5 [+] [-] [×] [÷] [×] [=]

ですから,

  • 2乗は [×] [×] [=] で計算できる

という主張は,

  • 2乗は [+]  [×] [=] で計算できる

という(おかしな)主張と本質的に同じなのです。

つまり,「間違いではないが適切ではない」ということになります。

ちなみに,カシオタイプでも [×] [×] [=] で2乗が計算されますが,[×] [=] でも2乗が計算されるのですから,「手数が多すぎる」という意味ではやはり「間違いではないが適切ではない」ということになるでしょう。

※カシオタイプで [×] [×] と押した場合は,シャープタイプとは別の解釈がなされるのですが,ここでは説明を割愛します。

検証3:[RM] [CM] の2つが独立していないと(電卓だけで)計算できない式がある【誤り】

[RM] [CM] の2つが独立している電卓(すなわち [R・CM] キー1個にまとめられていない電卓)を強く推奨する方々がいます。

「強く推奨する」のは全く問題ないのですが,『[RM] [CM] の2つが独立していないと(電卓だけで)計算できない式がある』という主張については検証が必要です。

以下のように単純に考えてみてはいかがでしょうか。
※厳密な検証をすると説明の分量が増えすぎるので,やめておきます。


※前提:計算前にはメモリをゼロクリアしている。

たとえば,以下のような操作をしたとき,

  • (操作1…)[RM](操作2…)[CM](操作3…)

それは,以下のように操作してもよかったはずで,

  • (操作1…)[RM] [CM](操作2…)(操作3…)

ならばそれは,[R・CM] キーを使って以下のように操作したのと同じことになります。

  • (操作1…)[R・CM] [R・CM](操作2…)(操作3…)

上記のように考えれば,『[RM] [CM] の2つが独立しているタイプの電卓でできる計算』は,『[R・CM] キータイプの電卓でも計算できる』ということになります。

『[RM] [CM] の2つが独立していないと(電卓だけで)計算できない式』として以下のような形の式が紹介されているのを見かけましたが,もちろん [R・CM] キータイプの電卓を使って(電卓だけで)計算することができます。

[R・CM] キータイプの電卓では計算できないとされる計算式

\[
\frac{7-\sqrt{8^2-5\times 4\times 3}}{6-2^2}=2.5
\]
※環境によっては,数式が正しく表示されないかもしれません。

実際は [R・CM] キータイプの電卓でも,以下の操作で計算できる

  • [CA](メモリもゼロクリアする)
  • 8 [×] [M+] (「8の2乗」をメモリに入れる)
  • 5 [×] 4 [×] 3 [M-](「5×4×3」をメモリから差し引く)
  • [R・CM] [R・CM] (メモリの内容を呼び出し,すかさずメモリをゼロクリアする)
  • [√] [+/-] [+] 7 [M+](ルートとったものを正負反転して7を足し,メモリに入れる)
  • 2 [×] [=] [+/-] [+] 6 [=](分母の計算〈最後の [=] は省略可能〉)
  • [÷] [=](分母の逆数をとる)
  • [×] [R・CM] [=](メモリに入っていた分子を掛ける)

[R・CM] キータイプの電卓における操作のコツは,以下の動画で紹介しています。

【使い方05:メモリ機能】

私は普段 [R・CM] キータイプの電卓を使っていますが,『うーん,この式は [RM] [CM] の2つが独立していないと(電卓だけで)計算できないなぁ』と思ったことは一度もありません。

※私の認識に穴がある可能性も否定できませんから,反例があればお教えください。検証したうえで,広く皆さまに紹介したいと思います。



ここまでの説明は,当サイトの「電験のための電卓講座」で一通り勉強?していただいた方には本来不要なものです。

当サイトのみならず広く情報収集されている方もいるでしょうから,老婆心ながら書いてみた次第です。

参考になれば幸いです。